炊きたてご飯を無条件で美味いという風潮はとにかくなんとかならないか。CMでもさも当たり前のように、湯気たててやがる。
これはどんなものでも熱々料理全般に言えるんだが、仮に汁物だったら熱すぎて、味を感じる余裕がそもそも無い。
美味いって言ってる輩は、味そのものを判断してるんじゃなくて、きっと温度で舌が錯覚しているだけなんだろう。
甘いものでも、しょっぱいものでも、その味を最も感じやすい適した温度ってあるはずだ。
っていうか猫舌だし貧乏舌なので、正直お米の味はどこの産地だろうが大して変わらないと思ってる。
いわゆる平成の米騒動で古米でもタイ米でも個人的には十分旨かったので、料理の味付けやバリエーション次第だし、いまや単に炊飯器の性能差の話だろうと。
私にとって白米は主役じゃなくって、おかずの味を増幅して腹いっぱい食べた感になるためのもの。
少しのお肉でもご飯をいっぱい頬張れば、なんかやけにたくさんお肉を食べた気がする。
おコメの甘みが~とか言うけれど、いまどきそんな薄味なおかずで、よく噛んで白米を食べている人がどれほどいるというのか。
淡白な味でいいんだよおコメは。
そもそもちょっとパサッとしてて、粘り気がないくらいのコメが良い。
箸や食器に無駄にへばりついた米粒を、キレイに食べきることに神経を使いたくない。
というかあの粘り気こそが、舌や上あごをやけどさせる大敵。
もはや味の好みじゃなくて質感の話だが。しかしそうなると、どうしても炊きたては粘り気が強すぎる。
湯気立ててほかほかしてても、おかずの邪魔にしか思わない。
しかしなぜか炊き立てご飯好き家庭に生まれた私にとって、ご飯が炊きあがったらまず自分の分を盛って、さっそうと冷凍庫にぶちこむというルーティーンがあった。
例えばそれはカップ麺でも、少しぬるいくらいのお湯で作って、食べる時は蓋の上にしばしおいて少し冷ましてから口に入れる。
電子レンジ調理のおコメが500Wで2分表示なら1分半、レトルトカレーが2分なら1分に。
そうやって不意に熱々料理に遭遇しないようにかわしてきた。
食事とは、腹が減ってるときに行うものであって、腹が減ってない時に食べるのは単に日々のタスク感がすさまじい。
それは、張り切って大盛定食を頼んだら、食べきれないくらいの量の爆盛り料理店で、一体どんな順番でどのペースで食べるか考えているのと同じくらい作業感がすさまじい。
となると、腹が減ってるときに目の前のご飯をむさぼるように猛スピードで食べれないなんて、一体なんたる苦痛か。
据え膳とはまさにこのこと。
例えば熱いおでんをハフハフして食べる。それはもはや食事ではなく、ハフハフという行為、すなわち罰ゲームだ。それにしてもなんだハフハフって。亀仙人か、パフパフか。
猫舌は、食べ方が下手とか、遺伝の問題とかいろいろ言われるが、そもそも味の好みは千差万別なように、料理の好みの温度だって個人差があってもいいはずだ。
しかし大抵の場合、電子ジャーから出したばかりの炊き立てご飯はどの家庭でも同じ温度だし、鍋でも味噌汁でもスープでも沸点は1気圧下で摂氏約100度だろう。
多様性の現代で、おコメの国に生まれたのだから、炊き立てご飯嫌いは非国民なわけがない。
むしろ他が見向きもしないような冷えたおコメを愛している、誰よりもおコメ好きだ。なのに非国民などと言ってくる輩にはあえて味覚障害と言ってやろう。
冷えたピロシキでも、冷えたピザでも、冷えたチャーハンでも、冷えたカレーでも、冷えたトムヤムクンでも、好きなヒトがいたっていいじゃないか。
もしそれがまずいなら、それは冷えたことが問題なのではなく、その料理そのものがまだ改善余地があるということ。
メーカーの試行錯誤と相違工夫によって、冷えたピザだってうまいものは旨い。
昨今では、健康のためのヘルシーなメニューを考える人も増えてきた。
ならば炊き立てご飯で口腔内や咽頭をヤケドしそうになるなんて、健康に百害あって一利なしだろう。
何も冷蔵庫に入れて冷え冷えにしろって言ってるんじゃなく、熱々ほかほか過ぎるので、冷ませってか適温を知らんのかって話だ。
健康志向の人が使うよくある言い回しで「ヒトは本来○○」みたいなのがあるが、だったらヒトが熱々料理を好んで食べるようになったのは、せいぜいこの数百年の話だ。
それ以外の遥かに長い期間、20万年前のホモサピエンスは冷えた食物を当たり前に食べていたはずだ。人類の悠久の歴史を軽んじるなど笑止。否、片腹大激痛。
遡れば、ヒトのご先祖様の小さなネズミたちは、白亜紀後期に冷え冷えの恐竜のタマゴを食べて生きのびてきたことだろう。ならば現代の卵アレルギーのヒトなんぞ非哺乳類とさえ言えてしまう。
「昔の日本人は玄米が主食だったからそれが一番健康的~」みたいなこと言ってる輩がもし炊き立てご飯を出して来たら、猫舌じゃないんだろうけど二枚舌だなとは思う。
あつあつが美味しいなんてきっと、凍え死にそうな雪山で遭難しかけた時に、運よく見つけたロッジ内で、気難しそうな家主にそっとコーヒーを差し出されたときにしか感じない。
ビバ・冷やご飯