よつまお

過去ログ倉庫を兼ねたライフログ的な雑記ブログ。記事ジャンルにこだわることなく、不定期更新でゆるゆる運営しています。

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殺し屋

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Self Review

 

探偵ものや推理ミステリを読み漁っていた小学生時代の構成。

後に若干のリライトを加えてある。

 

まず先にオチを考えて、そこに行き着くにはどういった物語にすればよいか考えた。

 

子どもなりの話の作りだが、今後何らかの形で同類のアイデアを活かせるのではないか。

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殺し屋

 

ふと時計を見たときには、もう夜中の二時を過ぎていた。

 

私は最近、連日連夜の仕事で非常に疲れている。

 

いつもならこの位の時間に、的をやっている頃だ。

 

そう私は、殺し屋としてこの血なまぐさい世界で生きている。

 

この界隈では名の知れているほうだが、我ながら年を考え、そろそろ引退しようと思いを巡らせていた。

 

その時だった。私の依頼用の携帯電話が鳴り響く。久々の新鮮な着信音に促され、気づけば私の頭は仕事用に切り替わっていた。

 

「シャドウマーダー……」

「承知」

 

シャドウマーダー……暗殺を意味する隠語だ。依頼人は必ず第一声として言うことになっている。

 

「的は中津良助」

~ほう、あの富豪の男か)

「報酬はきっかり二億……」

「承知。三日以内に決行する」

ブチッ……ツーツーツー……

 

最近、もう少し味のある普通の会話をしたいと思っている。いつもなら思うだけだが、今日は違った。この仕事を最後に、普通の生活に戻ることを決めていた。

 

私はいつも、仕事のテーマを的に応じて決めて実行している。例えば、事故死に見せたり、病死に見せたり、といった感じだ。

 

だが今回は、依頼が来る前にテーマをすでに決めていた。

 

最後のこの仕事は、自殺に見せかける、をテーマにする。

 

さて、テーマは決まった。あとはそれに沿った計画を決めなくては……トリックは無用だ……限りなくシンプルに……

 

数十分ほど経っただろうか。沈黙の中で私の人物ファイルを見ていてふと気づいたことがあった。報酬の額は的の保険金とまったく同じだ。ということは的の保険金を受け取ることが出来る内部の者が依頼したのかも……(私への報酬をそれで払うつもりか?)……仮にそうだとすれば内部の者に邪魔される可能性は少ないかもしれない。

 

凶器は猟銃あたりがいいのか?本来はサイレンサー付の銃を用意するが、今回のテーマは自殺なんだ、誰かが音に気づいてくれたほうがよりいい。

 

実行時刻は的が風呂に入る前、帰宅して着替える前がベスト。これから死のうとしている人間は明日に備えるはずはないからだ。

 

……報酬か……すでに私には十分すぎるほどの蓄えがある。いくつもの会社を経営している富豪の保険金がたった二億……どうだっていいことか……こんな余計なことを普段考えたりはしない。

 

いつもは決行前のスリルで頭がいっぱいなはずだ。しかし今回はうまく頭が働かない。考える必要のない無駄なことばかり思い浮かぶ。

 

……こんなことを考えている暇はない。私はもうこの生活に疲れている。いち早く的をやって休みたかった。

 

ブラインドの隙間から見える窓の外が、すでに薄明るい。

 

昼までに計画を立て、今夜には実行したい。

 

調べによれば的は豪邸に一人暮らし、メイドやペットなんかもいない。自室は幸いなことに一階。高い塀に囲まれた邸宅が面する道とは正反対の角の部分。忍び込むのに好都合な立地だ。

 

天気も良好。雨でもなければ乾燥しているわけでもない。足跡を残さないためには絶好の季節だ。

 

うまく敷地に忍び込んだら、自室の窓でも叩いてみる。この辺りは野良猫も多い。何かいたずらしているのかと、窓を開けて外を確認するだろう。そしたらさっさと部屋に上がりこみ脅して遺書を書かせる。所詮人間などという臆病な生き物は、自分がなんとか助かろうと、こちらのどんな願いにも素直に応じてくれる。

 

決行直前に、本人から警察に自殺予告の電話をさせる。

 

遺書を書かせている際に的の利き手を確認し、あとはそちら側から銃を握らせ発砲。

簡単な話だ。そして自分は堂々と玄関から出て行けばいい。

 

戸締りなんぞ出来るだけしないほうがいい。自殺するような精神不安定な人間が、鍵をいちいち閉めたりはしないだろう。

最近的の会社経営はうまくいっていない。自殺の動機には十分。

 

……こんなもんだろう。大筋さえ決めてしまえばあとは私のキャリアでなるようになるさ。

 

すでに辺りは暗くなっている。そろそろ的が帰宅する時間だ。いつもの車のエンジン音が聞こえてきたら決行だ。そう、私は的の家から目と鼻の先の近所だ。

 

聞き覚えのある車の音が、遠くから聞こえてくる。

 

……よし、行こう。ここからは手馴れたもの。あっという間に敷地内へたどり着く。自室の窓はブラインドが閉じられていて中の様子があまり見えない。

 

しかしこのブラインドはある欠点がある。外の明かりがやけに室内から見えるのだ。私と同じブラインドとはいい趣味だが。さて、手持ちのライトで照らしてみようか。的は驚くだろう。さあ窓を開けてくれ。

 

順調に事は進み続ける。そしてついに自殺させる時がきた。……バァーーーン!!……

 

全てが終わった。我に返ると私は自室の床に寝そべっていた。相当疲れていた。

 

眠気にも似た疲労感で意識などほとんどない。年には勝てないな。

 

薄れゆく視界にはパトカーと救急車が見えた。手配が早いな。

 

もう私は半分眠りに落ちているのだろう。最後の仕事をやり終えた達成感で体がまるで宙に浮いているようだ。

 

そのときだ。パトカーは私の家の前で止まった。警察官が降りてくる。私の部屋へ向けて一直線だ。バカな!?足がついたとでも!?

 

「やはりこいつか、まったく。銃で一発だな。まず自殺で間違いない」

「そうですね、以前にもこんな騒動がありましたし」

 

あっさり自殺と断定されたのは喜ばしいことだ。だが、なぜ私の部屋にこいつらがいる?そういえば的の部屋は私の部屋の間取りと一緒だった。まさかあまりの疲労に自室だと勘違いして的の部屋で私は眠りこけてしまったのか?

 

「仏さんには失礼だが、こんな貧乏アパートで身寄りのない老人が殺される要因が見当たらん」

 

おいおい、いったい俺は誰を殺したんだ?人違いなのか?

 

「ガイシャは76歳男性、もとは数社の会社経営をする富豪でした。しかし、数年前に事業に失敗、落ちぶれて精神を病んでいたようです」

 

なるほど、元富豪だったとはな。私の人物ファイルの情報が古かったか。

 

「つい最近まで精神病院に入院していましたが、軽快したとして一時退院。しかし直後に自殺未遂を起こしています。その際は、錯乱状態で、自分が殺し屋に殺されるとかわめきちらし、担ぎ込まれる病院まで一人二役を演じていました」

「そんでもってまた退院したと思ったらこれか。まあかわいそうなじいさんであることに変わりはないな。中津良助か……」

 

私はそこで全てを知る。私の眼下には、小さな部屋とそこに横たわる見慣れた一人の男。それを取り囲む警察官が見えていた。