よつまお

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勇気のカケラ、隠し味

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Self Review

 

所属同人規定テーマエッセイ。2014年分先行公開。

以前コンペ用作品として仕上げたもののリライトである。

 

ページ数の都合上カットした部分は多々あるのだが、ちょうどよく規定テーマに合った題材であったため、ほぼそのままに近い状態での脱稿となった。

 

改めてこう振り返ると、やはりいまひとつオチの部分が弱い感じがするのは否めない。

しかしながら逆に、よりタイトな文章にするという点において、ある程度の成果はみられたように思う。

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~母の味~

    勇気のカケラは味に舞う

 

 二十代も佳境に差し掛かった頃のこと。私は翌日に手術を控え、不安に苛まれていた。

 

こう書くと実に大袈裟になるのだが、簡単に言ってしまえば「親不知の抜歯」である。

 

私はその手術前夜、最後の晩餐宜しく、街中で夕飯のアテを探し回っていた。

 

仕事で疲れた果てた足が思わず向かうところは、通い慣れた小さな個人食堂だ。

 

食堂の席に着き、店内のお品書きをボーっと眺める。視線の先には〝新作・すき焼き牛丼〟と書かれたお手製ポスター。

 

私は肉料理が大好物である。迷わずその牛丼を注文することにした。

 

……数分後。店じゅうに割下の匂いをふり撒きながら、私の元にどんぶりが運ばれる。

 

それを一目見て、私はなぜか既視感を覚えていた。

 

 外見はその名の通り、単にすき焼き風に煮込まれた牛肉が乗ったどんぶり飯だ。

 

どこか違和感を持ちつつも、私は無言でそれにかぶりつく――しっかり目の味が絶妙に美味い……いや、正確には「懐かしい」だ。

 

記憶の彼方から私の思い出を呼び起こす。

 

 そう、これは……肉嫌いの母に対して、幼い私が牛丼が食べたいと駄々をこねて作ってもらった物に外見も味もソックリなのである。以降スタミナ食として、事ある毎に食卓によく登場していたものだ。

 

まさか一人孤独な夜に「オフクロの味」に再会するとは思わなかった。私のピンチはまるで、母に以心伝心しているかのようだ。

 

翌日、私は麻酔が効かないという状況の中で無事(?)治療を終えることとなる。

 

しばらくの小食生活の後、抜歯の傷跡が治り、食欲が戻った頃。実家を訪れ、「ただいま」より先に私が母に言ったセリフはこれだ。

 

『また、あの牛丼が食べたい』